REPORT

2020.12.18

[旅×介護]高齢者の旅をしたい想いに介護でこたえる|オープニングセミナーレポート

介護が必要になっても、旅することをあきらめない。

11月15日、介護の仕事研究室「オープニングセミナー[旅×介護]高齢者の旅をしたい想いに介護でこたえる」を、NPO法人しゃらく代表理事の小倉譲さんを迎えて開催しました。

新たな視点で介護にアプローチする方をゲストにお招きし、介護に対するイメージや思い込みをアップデートする学びの場。介護の仕事研究室の初回となるオープニングセミナーは、35名の学生にオンラインでお集まりいただきました。

今回ご参加いただけなかったみなさんと、ここでのレポートを通じて学びを共有できれば幸いです。また、セミナーの内容をギュッと凝縮したハイライト動画もまとめていますので、あわせてご覧ください。

→ https://kaigo.f2f.or.jp/report/410/

当日のセミナーはFACE to FUKUSHI共同代表の河内崇典と、同じくFACE to FUKUSHI事務局の池谷徹がファシリテーターとして進行を務めました。

配慮が必要な方から要介護5の方まで。はじめは「介護が必要な方と旅行をしても大丈夫なの?」と、反射的に思ってしまいますよね。ところがそこを、一人ひとりに合わせた介護や看護を完璧に準備し、当事者の「旅に行きたい」想いを叶えるのが、NPO法人しゃらくの「旅倶楽部」。そんなこれまで誰もやらなかった介護の実践について、ぜひお話を伺いたくNPO法人の小倉さんにお越しいただきました。


◯NPO法人しゃらくについて

あふれる本心の笑顔と出会える、
介護付き添い旅行サービス「しゃらく旅倶楽部」。

小倉:みなさんこんばんは!はじめにNPO法人しゃらくの活動内容をご紹介します。まず一つめは「旅倶楽部」という配慮や介護が必要な方を対象にした、介護付き添い旅行のご提案になります。NPO法人でありながら、やっていることは基本的には旅行会社とほぼ同じ。2006年に創業し、旅行業登録・タクシー運転者登録・社用車も購入し、2008年から第二創業というかたちで高齢者の旅行事業をはじめました。

実績としては、日本はほぼ全国へ行っています。ときには僕がお客さまを担いで山に登ったこともありました。海外はヨーロッパや韓国、比較的近場のアジアなどへ。たとえば在日の方が「最後にもう一度故郷をみたい」というご依頼にお供したり、また、ヨーロッパ方面は比較的ニーズが多いかなというところです。

海外旅行に行ったことがない。飛行機に乗ったことがない。パスポートを持っていない。そんな方でも「一度海外に行ってみたいのよ〜!」と聞くと、すぐさま「ほないきましょう~!」言うて、すぐパスポートを取りに行き、旅行の計画を段取りします(笑)2020年10月現在で、のべ6650人の旅をコーディネートさせていただいています。

この事業を通じて僕は、たくさんの本心の笑顔や驚きのあるいい顔と出会いました。やっぱり人間って、心で感じることですべてが始まると思うんですね。心で感じることを失うと、人は元気でいられなくなる。特別な非日常としての「旅行」へ行くことで感じ、心が変化すること。心が変化し、楽しむことであふれ出る笑顔って、すっごく素敵なんですね。お客さまに「ありがとう」と言われますが、そのお顔をみると「逆にこっちがありがとう」です。人生の大切なことを教えていただいてるんだなあ、と日頃よく考えています。




「しゃらく旅リハ倶楽部」で、
日帰り旅行をリハビリ代わりに。

小倉:「旅倶楽部」のオーダーメイド旅行のほかに、日帰り旅行をリハビリ代わりにする「旅リハ倶楽部」というサービスも提供しています。

なぜはじめたのかというと、7〜8年ほど前に神戸市北区と西区を除く7区での孤独死が600人を超えたことを新聞でみたのがきっかけ。それが許せなくてね。誰にも看取られることなく、たった一人で寂しく亡くなっていく。そんな社会でいいんですか、と。それが自分の兄弟、親、おじいちゃん、おばあちゃんだったら、我慢できますか?ものすごくやるせない気分になりました。ほんまにそうなんか?っていうことで、須磨区内のケアマネージャーさんにご協力いただいてアンケートをとったんです。700名ほどのアンケートの結果、独居生活をしている方の7割近い人が鬱傾向でした。外に出られないわけですよ。僕らもここに参加してるみなさんも、コロナでなんだかんだ言うて出にくさはあるかもしれませんが、コンビニ行けるじゃないですか。スーパー行けるじゃないですか。でも世の中には行けない人がいっぱいいるんですよ。

一人暮らしをしていて体が動かなくなった人たちが、なんの楽しみもなく日々過ごす。そんな社会は「悪」だと思ったので、タダ同然の価格で「旅リハ倶楽部」を始めたというわけです。なのでこれはもう儲けるためではありません。心を元気にしてほしい。心が元気になって来月も「旅リハ行くで〜」というふうに、体も元気になってもらいたい。これまでで175回くらい催行し、のべ人数1000名様ほど参加していただいています。

旅リハ倶楽部は1日5〜6時間のツアーで1日4本催行しています。すぐに予約に埋まるんですよ。リハビリ代わりの旅と称しています。つまり、あきらめていた旅行に再び行けるようになると、もう一歩先まで行ってみようかなと思うのが人ってもの。僕のお客さまにもいらっしゃいますが、たとえば通天閣行って串カツ食べた。それで楽しかった、そして幸せになってくると、次のさらなる楽しさを求める欲求が生まれてきます。これがまさにリハビリなんじゃないかと!僕はそう思うんですよね。

◯旅の事例

不可能の「不」をとると、「可能」になる。

(写真を見ながら)

小倉:こちらは当時96歳のおばあちゃん。腎不全で透析が必要なんですけど、延命を拒否されて自然死を望んでおられたんです。残り少ない時間の最後の思い出に「家族で出雲大社に行きたい」と、当時38歳だったお孫さんからご依頼がありました。写真には映っていませんが、長年の入院生活で膝が硬直して曲がらなくなっておられて。そんななか、なんとか車椅子のリフトが付いている当法人の介護タクシーで出雲大社へ無事到着。家族で記念撮影をされました。このおばあちゃん、コロナの緊急事態宣言の最中に亡くなられたんです。状況的にお葬式にも参加できなかったご家族の方もいらっしゃたんですが、そのときもご家族のみんなが僕の携帯に電話くれましてね。「最後に行きたいところへ連れて行ってあげれてよかった」と。

お葬式に行けなくても、あの思い出があるからよかったと思うって言ってくれたんですね。ここすごく重要なポイントで、亡くなるというのは本人が亡くなるだけじゃなくて、残される人も傷つくものなんです。残される人のケアは当然必要。そういった意味で、旅はすごく重要なのかなと思っています。


(写真を見ながら)

両四肢麻痺・言語障害・胃ろうといった重度の障害をおもちのこの方のご要望は、「還暦をエーゲ海の上で迎えたい」とのことでした。話せない、手足も動かせない、さらに経管栄養。旅の準備には、細心の注意を払って荷作りをしました。はっきり言ってものすごく大変でした(笑)出発したらすぐに点滴。経管栄養の胃瘻の中から水分補給をしています。イタリア→ギリシャ→トルコを渡航。いよいよ、エーゲ海の上で還暦を迎えるためにサントリーニ島へ行こうとしたとき。島へ行くための小さなテンダーボートに「車椅子で乗らないでくれ」と言われてしまいました。実はこれ、行く前からずっと言われていたことなんです。でも絶対に還暦の日に、この人を憧れのサントリーニ島へ連れていきたい。現地で直接「ほな車椅子じゃなけりゃ、いいんやな?」と聞くと「そうです」と言われたので、しのばせておいた抱っこ紐でお客さまを抱っこしてボートへ。おっさん二人がいちゃいちゃしているみたいでしたが(笑)、なんとかミッションは達成できました。

不可能の「不」をとったら可能になる。だったら可能にしてしまえということで、車椅子なしでもあかんと言われたら、30分間土下座するというルールを自分の中に決めて、テンダーボートに乗る手前に腕に書き込んで行きました。そこまで覚悟を決めて、なんとかサントリーニ島へ上陸できました。その日の夜は、楽しく還暦のお祝いができました。


◯創業のきっかけ

旅でじいちゃん、どんどん元気に!

小倉:あらためて、創業時の話になるんですが。そもそもNPO法人しゃらくを立ちあげたのは、ある出来事がきっかけになっています。そのお話をします。

僕は昔からおじいちゃん子で、毎年いっしょに旅行へ行ってたんです。そのじいちゃんが肺気腫、膀胱癌、認知症、糖尿病を患い老老介護に。当時は僕サラリーマンしてたんですけど、老老介護を見かねて金曜日夜から日曜日夜まで僕が介護をしてました。あるとき僕が「じいちゃんまた旅行行こう」と言ったら、「じいちゃん死ぬから行けへんねん」って言うわけですよ。「そんなこと言わんと」と、じいちゃんの好きな徳島県鳴門市にある人丸神社へ行こうと、旅行会社に問い合わせをしたところすべて断られたんです。さらに親戚中からの猛反対も。「じいちゃんに何かあったらどないすんの!?」と、はっきり言ってやかましい。だからもう、内緒で旅行行きました(笑)

するとどうでしょう。人丸神社の前に来たとき、ほとんど歩けなかったじいちゃんが、むくむくと立ち上がり階段を上がっていくではありませんか。境内には神主さんがいて、神主さんと30分も立ち話をしたんですよ!?

その後、なんとじいちゃん、その神社の歴史を調べだし、神主さんと文通をはじめたんです!交流が深まり、こちらから魚を送ったら、向こうから乾燥わかめが送られてくるみたいなことが起きて、どんどん元気になっていったんですよね。

これはやるべき。まだ世の中にない事業なら、自分でつくってしまおうと創業を決意しました。僕たちのキャッチフレーズである「旅をあきらめない」とか「旅は最高のリハビリ」という言葉は、まさにこのエピソードからきています。

◯質問/感想など

覚悟をもつというより、生きがいになる仕事をもつ。

■利用されるお客さまはどのような方が多いですか?

小倉:病院からのお客さまより、ターミナル期の方のオーダーが多いですね。基本的には在宅介護をされているか、有料老人ホームなどの施設にいらっしゃるお客さまになります。

■知識と実践のバランスはどの程度必要だとお考えですか?

小倉:知識と実践のバランスってすごく難しい。基本的なベースに知識があり、その知識の上に知恵が生まれると思うんです。知識がベースにならないと、知恵は生まれない。知識と知恵の豊富さからイノベーションが生まれると思っています。でも「しゃらく旅倶楽部」だけの話でいうと、知識をもちすぎると怖くて旅行に行けなくなるかもしれない。怖さがわからないまま事業をはじめられたことは、逆によかったと言えるかもしれませんね。

■貴重なお話ありがとうございました。不可能の「不」をとると「可能」になるという言葉が印象に残りました。自分のその活動を振り返ってみても、どこかでできないと思い込んでる自分がいたりする。できないと思うんじゃなくて、できるためにはどうすればいいのかを考えていきたいと思いました。

小倉:できない理由を考えるより、できる理由を考えるほうが人生って楽しいんですよね。できない理由を考えてしまったらそこで終わっちゃう。旅行もそうなんですけど、やはりできる理由を考えたほうがいいんです。問題をどうクリアしていけばいいのかっていう、前向きなところで集中できるでしょう。

■リハビリ旅行ができるようになると、次の欲求につながり、その欲求がリハビリになる、というお話に共感しました。お客さまのご希望を叶えるための相当な覚悟に圧倒されました。

小倉:日常の中って、やっぱり日常なんですよ。日常があるからこそ、帰ってくる場所があるんですよね。日常のリハビリを変えていこうと思うと、やはり非日常の刺激が必要なんだろうなと思います。

「覚悟」という言葉が出てきましたが、僕らはあんまり覚悟はないんですよ。ただただ目の前にいるお客さまに喜んでもらいたいという、強い気持ちがあるだけです。当然厳しいこともたくさんあります。ただ、自分たちがやりたいことを仕事にしたいという想いがやっぱり強い。我慢しながら仕事をするんじゃなくて、自分たちがやりたいことをやっています。それは覚悟というより、生きがいなのかもしれませんね。

小倉さんの貴重かつ多彩なエピソードに、笑いと共感に包まれたあっという間の時間となりました。小倉さん、参加いただいたみなさん、このレポートを最後まで読んでいただいたみなさん、本当にありがとうございました!みなさんにとって、介護の見方が少しでも更新されたら、こんなに嬉しいことはありません!



[ゲストプロフィール]

NPO法人しゃらく代表理事 小倉譲 氏

1977年生まれ。高校卒業後、中国へ語学留学及びアジア放浪の旅をする。その後、立命館アジア太平洋大学マネジメント学部入学。在学中、ETICスタイル2003年ファイナル賞を受賞し、障がい者の衣服を作る事業を行うため、修行を目的として2004年アパレルメーカーに就職。2005年退職後、障がい者の衣服を作るプランをあきらめ、旅行会社設立のため準備に入る。2006年1月NPO法人しゃらくを設立し代表理事に就任。http://www.123kobe.com/

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