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2021.12.17

カイゴの業界研究セミナー レポートvol.1|非日常のくらしをつくる「旅×福祉」~介護つき旅行で届ける人生の創造~

「非日常のくらしをつくる」をテーマに開催された、【カイゴの業界研究セミナー】。
第一弾として紹介するのは「旅×福祉」をコンセプトに、付き添いや介護が必要な人への旅行の提案・提供をしているNPO法人・しゃらく。
「なぜ旅×福祉なの?」「どんな旅行を提供しているの?」事業への想いや旅行の実際、参加者の声など…
旅×福祉の”リアル“を、しゃらく代表・小倉譲さんに余すことなく語っていただきました!
NPO法人 しゃらく:https://123kobe.com/

 講師紹介 

NPO法人しゃらく・理事長 小倉譲 さん
家族の里帰りをきっかけに法人を起ち上げ。旅を諦めていた方や、最期が間近に迫った方に、介護や看護の力を使って、オーダーメイドな「人生最高の旅」をプロデュースしている。

 レポーター紹介 

看護師ライター・町田舞 さん
新卒でシステムエンジニアとして就職し、うつ病・休職を経験し退職。その後フリーターを経て介護職から看護師となり、フリーランスに転身。現在は訪問看護師としても働きながら、医療福祉事業のウェブ・広報業務や、看護メディアでのライター活動、ブログ・SNS発信などパラレルキャリアとして活動中。

しゃらく旅俱楽部とは?~事業概要~

しゃらく旅倶楽部(NPO法人しゃらく)は「旅×福祉」をコンセプトにした、兵庫県神戸市に拠点を構える旅行事業のNPO法人です。
通常の旅行会社との違いは、付き添いや介護を必要とする方を対象としているということですね。私たちのお客様は「介護が必要な方」「疾患をお持ちの方」「一人で外出が難しい方」です。


一人で外出が難しいお客様にはたとえば、身体は元気だけど認知症や知的障害がある方などがいらっしゃいます。
そういった、一般的な旅行が難しいお客様に対して、介護付き添い旅行のご提案や実際の旅行の付き添いをさせていただいています。

介助が必要な人の旅行事業…!

私は疾患や障害を持つ方のご自宅に伺って支援をする「訪問看護師」として働いているのですが、そこで関わる多くの方(特に高齢者)が、外出が困難な身体状態だったり、外出するときも周りの目を気にしていたりして、「(日々の生活に)楽しみや目標がない」「(遠出したい気持ちはあっても)こんな身体じゃどこにも行けない」「でも、(行けないから)しょうがない」と出かけたいのに出かけられない、という想いを抱えているんですよね。
そんな声を聞くたびに、歯がゆい想いをしていました。

自由に外に出かけたくても、そこにはいくつもの障壁があり、結果として楽しみがない生活を送っていたり、精神的・身体的に孤立してしまっている方も少なくありません。しゃらくの事業は、すごく社会的に必要な活動だと思います!

「旅×福祉」どんな旅行・サービスを提供しているのか?

(1)しゃらく旅リハ倶楽部

しゃらく旅リハ倶楽部は、“ドアtoドアのリハビリ代わりの旅行サービス”で、神戸市内にお住まいの自立~要支援の方を主な対象とした近場の日帰り旅行です。

これを始めた経緯として、7~8年前に神戸市内でケアマネジャーの皆さんにご協力いただいて行った、要支援・要介護の方の実態調査があります。
800名弱のデータが取れたんですが、そのときに7割の方が“出不精でうつ傾向”という結果が出たんです。


そのときにデイサービスの利用に対して「同じことさせられるだけだから、行きたくない」「座っているだけだし、周りに気を遣う、楽しくない」という声や、「旅行なら行きたい」という声が寄せられました。
そこから始まったのがリハビリ旅行の提案でした。

<しゃらく旅リハ倶楽部の特徴>
 1.お一人でも申し込み可、最低4名集まれば催行(募集型企画旅行)
 2.少人数なので、トイレにも行きやすい
 3.ご自宅の玄関先までお出迎え・送迎
 4.所要時間は1回あたりおおよそ5〜6時間
 5.訪問先は2箇所程度に絞り、少なめにした行程で実施
 6.カイゴや医療の有資格者(介護福祉士や看護師など)が同行するので安心

本当に本当に…「トイレ」はめちゃくちゃ大事です!

高齢者で支援が必要な方って、ご自宅にいるときでもトイレのこと常に気にされていることが多いんですよ。
そして皆さん、相手が看護師であっても手を借りることにものすごく気を遣われるんです。
排泄って自尊心に関わるデリケートで大切な部分。だから「少人数で、トイレに行きやすい」「福祉スタッフ同行」って本当に素晴らしいと思います。

<しゃらく旅リハ倶楽部の事例>

たとえば、旅行で人気があるのが「枝豆狩り」で、募集を出すとすぐに埋まりますね。
椅子に座りながら枝豆狩りを行っていただいていますが、そういった椅子なども私たちが手配しています。

お客様からは「自分一人では絶対に行かないところに連れて行ってもらえるから嬉しい」「買い物やトイレにも寄ってもらえるし、少人数で気を遣わないでいられるのが楽」「家まで送り迎えしてくれるのがありがたい」などの声が寄せられています。

また、ご家族やお客様の担当のケアマネジャーの方からも「参加する前より明るくなった」「自ら進んで外出するようになった」などの声をいただいています。

さらにこうして旅行支援を続けていると、リハ倶楽部の参加者同士がだんだんと仲良くなってきます。
すると「みんなでどこかに行こう!」という声が参加者からあがって、そこに賛同が集まるので、私たちが企画するのではなく参加者のリクエストに応じた旅行も行うようになりました。参加者の平均年齢が90歳のツアーなど、他の旅行会社では考えにくい旅行を提供しています。

冒頭でもコメントしましたが、高齢者は精神的・身体的に「孤立」してしまうことも少なくありません。家族や友人も介護が必要だったり、亡くなってしまったり、いても会いに行くことが困難だったりして、交友関係が閉ざされていってしまうんです。

そうして人生の楽しみが奪われていき、ますます心身が弱ってしまう…。何歳になっても「みんなでどこかに行こう」と声をあげられる場所・それを叶えられる受け皿があるって、素敵すぎます…。


(2)しゃらくオーダーメイド旅行

旅行から通院・転院まで、お客様に合った行程での外出支援を行うサービスで、しゃらくの主力商品です。
ご家族でも(一緒に旅行に行くのが)難しい方を対象に、完全オーダーメイドでの旅行支援をさせていただいています。

<しゃらくオーダーメイド旅行の特徴>
 1.事前に直接お会いして、身体の状態や必要なケア・リスク等をすべて確認し、
   十分な準備をして旅行を実施する
 2.必要に応じて介護や医療の有資格者が同行する
 3.可能な限り、お客様の要望に合わせてプランニングする

旅行までに少なくとも4回は実際に会ってから、旅行に臨んでいますね。24時間のケアが必要な方の場合には、事前に24時間一緒に過ごさせていただいて状態をみたりしています。そして必要に応じて看護師、場合によっては医師が同行することもあります。医師が同行しなければ亡くなっていたかも…という事例もあり、医療的処置が必要な方には医療者同行をプランニングしていますね。

<しゃらくオーダーメイド旅行の事例>

旅行の例を挙げると、常時酸素吸入をされていて酸素ボンベが必要な方の旅行などがあります。

酸素ボンベは一つ一つが重く、2泊3日分などを一度に持ち運ぶことは困難です。そういった場合、移動中に持ち運ぶ分と現地で手配する分など、事前の準備や段取りが必要になります。
その酸素吸入をされている方からは、遠方の施設で暮らす目が見えない息子さんに会いに行くために旅行の依頼をいただきました。親子ともに自由に外出や旅行ができない状態の中で、遠い施設で暮らす息子さんに会えたことをとても喜んでくれましたね。

他には80代で要介護4、透析拒否もして腎不全末期という方の「死ぬ前に出雲大社に行きたい」という願いと、お孫さんをはじめご家族からの「連れて行ってあげたい」という想いを実現するために、家族旅行の支援を行った事例もあります。出雲大社で、ご家族で何分も手を合わせていた姿が印象的でしたね。家族写真も撮って「みんなで行けてよかった」と喜ばれました。

また、私たちは「(神社などで)階段は登れないから遠目から見るだけでも…」で終わらせたくない、という想いを持っています。「何が何でも行きたいところの目の前まで連れて行く」という信念を持っていて、お客様を抱えて行ったり、墓地の中に簡易的な橋をつくってお客様を墓前まで運んだりしたこともあります。

いやはや、小倉さんの見た目からも伝わってきていましたが、橋を作ってまで目的地にお客様を運ぶなんて(すごくいい意味で)やってることがファンキーですね…!

ここまで徹底的にできることを叶えるためには、必ずリスクが伴いますよね。だけど、それでも工夫してできることをやる、ということに、信念の強さや、医療・介護・福祉スタッフで支えるチームの自信、お客様との信頼関係の深さを感じました。

おわりに~「福祉×旅」への想い~

あなたにとって、“日常生活”って何でしょうか?
たとえば、自分の家でご飯を食べてお風呂に入るとか、学校に行くとか、かかりつけ医の病院に行くとか…日本ではそういった“日常生活圏”は、介護保険法や障害者総合支援法など、国の保険制度・サービスで補うことができます。そうして福祉の制度が整っているなんて、日本は素敵な国ですよね。

では、その“日常生活圏から離れる”ってどういうことでしょうか?
それは友達と遊びに行くとか、旅行に行くとか、海外留学に行くとか、自分が知っている世界から離れて外の世界に行くことです。
それって緊張感や解放感が混在していてなんか“ワクワク感”がありますよね。

もしあなたが、自力で日常生活圏から離れることができないとしたら、どんな気持ちになりますか?
福祉を必要とする人は、現状の介護保険や障害者総合支援法だけでは、日常生活圏から離れてどこかに行くことがきわめて難しいんです。

「健常者は(どこにでも自由に行けて)いいけれど、そうではない人(自分でできない人、何らかの障害がある人)は行きたいところに行けない」目には見えないけれど、社会の中でそうして区別されている人がいる…それは不公平だと私は思っています。

「そんな福祉でいいのか?そんな社会(日本)でいいのか?」それを変えていきたい。そうやって日本を変えていくのが、私たちしゃらくの仕事です。

私たちの考える「福祉×旅」は「人生の創造」です。
旅行って、行く前から「何食べる?どこに行く?」ってワクワクしますよね。旅行中もそれを体験してワクワクして、旅行後も写真を見ながら「楽しかった、また行きたいね」など振り返って、おしゃべりしながらまたワクワクしますよね。
その体験を届けることで、日本を支えてきた皆様に「生きてきてよかった」そんな風に思ってもらえる瞬間を一緒に創造していくこと、それが私たちの考える福祉です。

「好きなときに好きなところに外出できる」コロナ禍でその常識にも変化がありましたが、それでも多くの人にとって、近所への外出(買い物や人に会う)とか小旅行とかって、「しようと思えばできる=普通・当たり前のこと」ですよね?それが当たり前ではない人がいて、そういう人ほど、声をあげることも難しかったり、出かけたいと思っても情報を得る手段や人に頼む手段を知らなかったりします。

「福祉×旅」があることで、たくさんの人の楽しみや喜び(心と体の健康)につながると思います。これからの超高齢化社会に、絶対に必要な活動…!いち看護師として、とても心があたたかくなるお話しでした!!

学生からのQ&A

しゃらく旅リハ倶楽部の参加者は、友達同士で参加される方が多いですか?
初対面同士が多いですか?また、初対面同士での旅行の際の留意点などはありますか?

基本的に、知り合いではない方同士であることが多いですね。あまりこちらで意識しなくても、一度一緒に旅行に行ってしまえば自然と仲良くなることが多いです。あえて注意してることと言えば、参加者の性別は気にしています。男性の高齢者は、女性の輪になかなか入っていけないことが多いんですよ(笑)なので、男性が参加される場合は男性添乗員をつけるようにしていますね。

若年層のお客様の利用はありますか?

付き添い・介護つき旅行なので、障害をお持ちの方で若年のお客様はいますね。
施設に入っている知的障害のある方などでは、ご家族がいないという場合もあって、私たちが家族代わりになって外出・旅行の支援を行ったりすることはあります。
あとは、小児がんなどで治癒する可能性が低いお子さんの最期の旅行ややりたいことのコーディネートなどもしていますね。また、身体が元気な方には震災が起きたときのボランティア旅行なども提案して行ってもらったりもしています。

コロナ禍で「旅行」という事業自体が追い込まれたのではないかと思いますが、それにより気付いたことやアップデートされたことはありますか?

めちゃくちゃありますね。このままいくと雇用を守ることが難しい、ということは痛感しました。
今はその学びを元に、同じ領域のお客様や営業先に共通するものとして、旅行とは違う事業・ビジネスづくりを始めています。
日常生活の支援と、非日常生活の支援、その両輪での事業体制を組んでいこうとしています。
(保険などの)制度がないところでのビジネスモデルづくりがうまくまわり出せば、安定した法人経営ができると考えてはいますが…
まだまだ大変で、正直死にそうですね(笑)

旅行に行くにあたって医師やご家族に反対された場合、どうすり合わせていますか?ご家族が抱く不安にはどのようなものがありますか?

言い方がきつく聞こえるかもしれませんが、医師などは「いいか、悪いか」で判断したり、(検査などの)数字はどうか、リスクはどうか、(理論上)正しいか正しくないか、などで患者さんの状況を見る職種ですよね。
どんなに「最期の思い出を作りたい」と本人やご家族が旅行を希望されても、医師からは「そんなの、今行ったら死ぬかもしれない」「(旅行から)帰ってきたときにベッドが空いてなかったらどうするのか」などと反対されることが多いです。
そして悲しいですが、医師からの承認がないと旅行は実現不可能です。
逆に、ご家族から(旅行を)反対されることは、ほぼありません。本人の望み・最期の願いだからとやってほしいと言われることがほとんどですね。


旅行事業を通して、保険や制度の外で「旅×福祉」という選択肢を創り、必要な人に届けているしゃらく。
誰かにとっての日常も、別の誰かにとっては非日常。その「非日常をつくる」しゃらくの活動を知って、あなたはどんなことを感じましたか?
これを読んだ人の視野や選択肢が少しでも広がって、あなたや周りの人の「日常」そして「非日常」が豊かになるヒントになったなら幸いです。

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