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2021.12.24

カイゴの業界研究セミナー レポートvol.3|日常のくらしをつくる~「ごちゃまぜの福祉」から生まれる可能性~

「日常のくらしをつくる」をテーマに開催された、第2回【カイゴの業界研究セミナー】。
今回紹介するのは「ごちゃまぜの福祉」に取り組む、みねやま福祉会の活動です。多世代の交流・共生により、それぞれの世代に生まれた変化とは?
その原点は実は…偶然⁈これからの地域・人の未来を考えるのに大切な「ごちゃまぜ」の魅力を、みねやま福祉会理事の櫛田さんに語っていただきました。

 講師紹介 

社会福祉法人 みねやま福祉会・理事 櫛田啓(くしだ たすく)さん
学生時代の夢はプロサッカー選手。祖父が創設した法人を継ぎ、地域課題を解決するためのまちづくりにも積極的に関わっている。地元が元気になる新しい福祉のあり方を実践中。
https://www.mineyama-fukusikai.jp/

 レポーター紹介 

看護師ライター・町田舞 さん
新卒でシステムエンジニアとして就職し、うつ病・休職を経験し退職。その後フリーターを経て介護職から看護師となり、フリーランスに転身。現在は訪問看護師としても働きながら、医療福祉事業のウェブ・広報業務や、看護メディアでのライター活動、ブログ・SNS発信などパラレルキャリアとして活動中。

みねやま福祉会とは

1950年創立。創始者で櫛田さんの祖父母である櫛田一郎さん・邦子さんが「苦しんでいる子どもたちを救おう」という想いから法人を立ち上げました。そこから、子どもへの支援だけにとどまらず、地域・暮らしの困りごとを解決し、ニーズに応えつづけるために、福祉サービスをはじめ、地域の維持・発展のために様々な取り組みをしています。

最初は乳児院から始まりましたが、現在では地域のニーズに合わせて「児童福祉事業(乳児院、児童養護施設、保育園、認定こども園)」「障害福祉事業(障害児・者支援事業、地域生活支援センター)」「高齢者福祉事業(総合老人福祉施設、認知症対応型老人共同生活援助事業、小規模多機能型居宅介護事業)」を計20施設(2021年11月時点)運営しています。

「ごちゃまぜの福祉」の原点

多世代が交流・共生する「ごちゃまぜ」の福祉は、偶然から生まれました。

みねやま福祉会は、戦後に戦災孤児に衣食住を提供し、乳児を守るための乳児院から始まりました。そこから乳児期だけでなく、人格形成に影響する児童期に移行する子どもたちの発育を守るため、集団養育も行ってきました。それが時代の流れとともに、親がいない(戦争で死別した)子どもはいなくなり、ケアが必要な子どもの背景が、親の虐待や経済問題、親の病気などに変化していきました。そこで、集団養育ではなく「小規模グループケア」という形に支援方法を変えていきました。

子どもの小規模グループケアを始めるにあたり、認知症高齢者のグループホームの職員官舎だった場所が空いていたので、そこで開始したんです。当初は、当法人の施設のすぐそばですし「連携が取りやすくていいかも」と考えていた程度だったんですが、そこで思わぬ化学反応が生まれました。

そこで生活する子どもたちと認知症の高齢者たちが自然に交流し、“一緒に生活する日常”が生まれていきました。さらに、心に傷を抱えた子どもの心の回復が進んだのです。実の親とうまく交流できていない、実の祖父母を知らない子どもたちが、高齢者との関わりを通して元気になっていく…そんな変化を目の当たりにしたんです。

偶然…!かつての日本は多世代で一緒に暮らすのが当たり前で、それが現代では核家族が当たり前。個人は孤立しやすく、世代を超えた交流が分断されがちですよね。
血のつながりに関わらず“多世代が一緒に生活する日常(ごちゃまぜ)”って、様々な世代の人にとってプラスの作用をもたらす可能性を感じます…!

その後、2件目の小規模グループケアはアパートを使って始めたんですが、そこでは高齢者との交流などはなく、子どもたちの心の回復は思うようにはうまく進みませんでした。そしてその後、高齢者が暮らす小規模多機能型居宅介護施設と同施設で小規模グループケアを始めたところ「やはり子どもたちの表情や、穏やかさ・落ち着き方が違う!」ということに気付きました。そこで「多世代交流には、お互いにいい面がある」と、多世代の交流・共生=ごちゃまぜの福祉づくりへとつながっていきました。

「ごちゃまぜの福祉」の始まり

みねやま福祉会では、2017年に「マ・ルート」という多世代共生の複合施設を始めました。特養(特別養護老人ホーム)・障害者施設・保育園が複合した「ごちゃまぜの福祉」です。

先ほど、ごちゃまぜの原点は偶然だと話しましたが、複合施設を始めるにあたり、社会のニーズや、「多世代が交わることで、高齢者も子どもも元気になるのはなぜなのか?」を調べていきました。

少子高齢化が進み、日本の将来の人口が減っていく一方で、年金・介護保険などの社会保障はパンク寸前ですよね。でも、そこで我々は「高齢者が多いのは悪いことなのか?」「高齢者の数が多いことが悪いわけじゃない、要介護者が増えることが支えきれなくなるのが問題なのではないか?」「じゃあ、高齢者に元気でいてもらうには?健康寿命を延ばすにはどうしたらいいか?」と発想を変え、様々なことを考えました。

その中で、「ごちゃまぜ福祉」がなぜ高齢者にとっていい作用をもたらすのかも深掘りしました。高齢者に関する様々な調査や統計で、「生きがいがある人は長生きで、生存率が高い」「人生の目的がある高齢者は、要介護になりにくい」「地域活動への参加頻度と要介護リスクは相関する(スポーツ・趣味・娯楽・ボランティア・社会活動などをしている人は、要介護率は下がる)」といったデータが出ているそうなんです。

高齢の患者さんと関わっていると、この先、生きていても「楽しみがない」「やりたいことがない」という声を本当によく聞きます。
一方、普段の生活で出会う働く高齢者はイキイキしていたりして、役割や居場所・楽しみを持つことが人の元気・健康に影響しているんだろうなとは感じていました。
統計の話を聞いて、色んなことが納得できました…!

「生きがい・人生の目的を強く感じている者は、健康寿命が長い」「高齢者の社会参加(就業・地域活動)が活発な地域ほど健康寿命は長い」という事実から、高齢者の生きがいづくり・社会参加の重要性を再認識しましたね。

さらに、人には自分自身の欲求を超越した「自己超越欲求(コミュニティの発展、隣人愛)」というものがあると言われているそうなんです。
それは「他人に貢献することが生きがいになる」ということで、高齢者にとって、子どもたちに何かをしてあげたいと思うことや子どもたちの帰りを待っていることが、自分の欲求を満たすことや元気でいることにもつながるんだと納得しました。
「人と人が影響し合うことで、人々は元気になっていく」その気づきが、複合施設「マ・ルート」の開設へとつながっていきました。

ふ、深い…。
以前、「人間は“喜ばれると嬉しい”という“本能”を持って生まれてくる」という話を聞いたことがあるのですが、まさしくそれが現れている素敵なお話だなと思いました!

「ごちゃまぜの福祉」で変化した実例

リハビリを頑張れば歩けると言われながらも、本人に意欲がなく「もう歩けない、リハビリ頑張れない」と車椅子生活になり、要介護4で特養に入居された方がいました。職員みんなでリハビリや歩行器の使用を勧めましたが、「もうしんどいから」となかなか乗り気になってもらえませんでした。

それがあるとき「〇〇さん、歩いて(施設内の)子どもたちに会いに行きませんか?」と声をかけたところ「それはいいね」と意欲的になり、子どもたちに会いに行くことがリハビリの目的ややりがいになり、歩行状態が回復していきました。結果として、要介護度が4から2まで下がり、特養を退所することもできました。

こうして、ただ多世代で交流するだけでなく、私たちが声かけやアプローチを変化させることで、これまで気付かなかった可能性も見い出せることが分かりました。ごちゃまぜの原点は偶然の発見からでしたが、実例を通して、「ごちゃまぜ」を仕掛けていく・コーディネートしていくことの重要性を感じましたね。

終わりに~みねやま福祉会の挑戦~

「ごちゃまぜは人々を元気にする!」福祉事業の中で、多世代交流・共生による様々な学びからそれを実感しています。

その学びを“福祉”の分野に限局するのではなく、“地域”で当たり前にしたい・仕掛けていきたいとみねやま福祉会は考えています。福祉事業だけに捉われず、より境界がなく地域の人・暮らしにとって良いものをつくっていきたいです。

今、みねやま福祉会では、地域のスーパーマーケットだった場所を使って「心が守られる居場所」をコンセプトにした場づくりに取り組んでいます。私たちだけでやるのではなく、地域の人と、設計プロセスから共有しながら進めていっています。 

みねやま福祉会は“関係性からはじまるソーシャルワーク”にチャレンジしながら、福祉のアップデートに取り組みつづけています!

偶然から生まれた「ごちゃまぜ福祉」。
そこから、福祉事業だけにとどまらず、地域や人の暮らしに根付いて、多世代の交流・共生によってお互いが支え合うための取り組みを続けている「みねやま福祉会」。いち福祉事業の枠を超えたこの想いや活動に、これからの社会・人々の暮らしに必要な大切なことが詰まっていると感じました。

枠を超えて常にアップデートされていくみねやま福祉会の未来が、福祉・地域の未来が明るく広がっていくことを願っています!

学生からのQ&A

「ごちゃまぜ」だからこそ大変だったこと、難しかったことはなんですか?

子どもと高齢者はやりやすく問題も少ないんですが、障害者の参画が難しいですね。子どもを預ける親御さんから、子どもと障害者との関わりを制限してほしいと言われることがあります。その発言の背景には、「わからない」「怖い」という想いがあると思います。とはいえ、そういう声があることは当然の声として受け止めています。

そこから固定概念・考え方をどう変えていくか…言葉で説明しきれないこともありますが、障害者が子どもたちと遊んでお互いがイキイキしているところなど“リアル”を見ることで伝わることもあります。丁寧に伝えていくことが大切ですね。

地域に開かれた取り組みをしていますが、地域との関係性づくりをするためにどんなことをしましたか?

施設づくりにあたって、地域住民から強く反対されたことなどもあります。関係性をつくるには、実際に地域の活動に参加し、人々の“本当の暮らし”の中に入ってアプローチしていきます。

たとえば、区の地域活動の「隣組」というものに参加したりしていますね。隣組の「隣組長」の方が倒れたときに、私が隣組長を引き受けたことがあり、そこからその地域の方の私たちを見る目が変わり多くのサポートを頂けたこともありました。仕事の枠を超えて、本気を見せること、地道にやっていくことが大切だと考えています。

施設の受け入れ拒否・反対されたのには、どんな理由がありましたか?

実は、全国的にあることらしいんですが“反対する人には明確な理由がない”ことが多いそうなんです。たとえば児童養護施設なら「治安が乱れるんじゃないか?」とかイメージで言われたりとかはありますが…。一番は「なんとなく嫌」という理由で、漠然と反対されることが多いんです。

コロナウイルス流行前と後で、多世代交流に変化はありましたか?

会えなくなったのは大きな変化ですね。高齢者の感染対策で、子どもの出入りは制限が必要になりました。ただ、今は接触の機会は減っていますが、それぞれの世代がお互いにつながる努力や工夫をしていますね。

たとえば、高齢者の方は子どもが外で遊んでいるとベランダに出ていって手を振ったりしますし、建物内にいながらオンラインで話をしたり、手紙で交流を図ったりもしています。あとは、子どもが館内放送を使って発信したりもしています。

みねやま福祉会が、法人全体として大事にしていることや理念はありますか?

法人の理念としては、「常に質の高いサービスを提供する」「地域の人の暮らしに貢献する」「職員の幸福を追求する」ことを掲げています。

サービスに関しては「管理より生活を」を大切にしています。どうしても福祉の仕事は“管理”の視点になりがちですが、暮らしって日々変わるものですよね。日々変化がある中で、トラブルさえも楽しめるように、人々の“生活”をみんなで大事にしていこうという想いを共有しています。


福祉という枠に捉われず、地域の人・暮らし福祉の境界をなくし多世代で共生していく「ごちゃまぜ福祉」。その先で生まれてアップデートされていく、地域社会の新たな「日常」の形。
多様化する地域社会の中で、あなたにとってこれからの暮らし方や働き方を考えるヒントになれば幸いです。

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