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2021.12.24

カイゴの業界研究セミナー レポートvol.4|日常のくらしをつくる~良くする介護から知っていく、地域共生社会の未来~

「日常のくらしをつくる」をテーマに開催された、第2回【カイゴの業界研究セミナー】。
今回紹介するのは、社会福祉法人から「地域共生社会づくり」のためのプロジェクトを立ち上げ、高齢者の自立支援から「はたらく」を生み出してきた京都福祉サービス協会の活動です。はたらくことは「就労」だけではない…。人々の暮らしを本当に“良くする”ために大切なこととは?地域共生社会推進センター代表・河本さんにその想いや活動を語っていただきました。

 講師紹介 

社会福祉法人 京都福祉サービス協会
地域共生社会推進センター 代表 河本 歩美 さん
施設利用者が施設外部とつながることを目的に、2018年にsitteを立ち上げ。高齢者の社会参加による活躍が、企業や地域の新たな可能性になると信じ、多様なプロジェクトを展開中。
https://www.kyoto-fukushi.org/

 レポーター紹介 

看護師ライター・町田舞 さん
新卒でシステムエンジニアとして就職し、うつ病・休職を経験し退職。その後フリーターを経て介護職から看護師となり、フリーランスに転身。現在は訪問看護師としても働きながら、医療福祉事業のウェブ・広報業務や、看護メディアでのライター活動、ブログ・SNS発信などパラレルキャリアとして活動中。

京都福祉サービス協会とは

京都福祉サービス協会は「くらしに笑顔と安心を」を理念に、訪問介護サービスを提供する「京都ホームヘルプサービス協議会」として1986年に発足。その後、多様な福祉ニーズに応えるため、京都市の出資を得て「京都福祉サービス協会」として社会福祉法人の認可を受け運営されてきました。職員数は2,707名(2021年11月時点)と、京都市内で最大規模の福祉法人となっています。

そんな中、昨年度より法人として新たなチャレンジにも乗り出し、中期経営計画として「地域共生社会へ」を第一目標とし、地域共生社会推進センターを立ち上げ、法人職員の意識改革、法人内事業を縦割りから横でつなぐ活動、地域課題に取り組むための新規事業などに取り組んでいます。

地域共生社会…ここ数年、様々な地域・組織が取り組む共通のテーマになっていますよね。
そこに地域で最大規模の法人が取り組まれていることは、社会の中でとても大きな力になっているのではないでしょうか…!

デイサービスで取り組む「自立支援」~良くする介護~

私たちの法人の「西院デイサービスセンター」では、2013年より自立支援の取り組みとして、利用者の動きを引き出すことを目標に「助ける介護」から「良くする介護」への転換を図っています。

介護保険が始まってから、介護業界全体に「利用者はお客様=職員がなんでもやって当たり前」という風潮があり「助ける介護」が行われてきました。

それを「良くする介護」にするために私たちは「①感謝の気持ちを伝える」「②自分でできる環境作り」「③自己選択・自己決定ができる環境作り」の3つのステップに取り組みました。

  1. 感謝の気持ちを伝える
    利用者さんから職員に「ありがとう」を伝えられる機会は多いですが、それを職員から積極的に「ありがとう」と感謝を伝えるようにしていきました。すると利用者さんに自信が生まれて、自分の食事を下膳したり、他の利用者さんの分の下膳も手伝ったりと、率先して動くようになりました。心に働きかけることで、身体が動いたり、役割が生まれることで元気や自立につながっていきましたね。
  2. 自分でできる環境作り
    施設内で、利用者さんが主体的に動ける仕掛けづくりを行っていきました。たとえば、フロア内で利用者さんの導線に物(雑誌やチラシなど)を置くなどして“見える化”を図り、自分で動きたくなるような配置を行いました。
    他にも、浴室ではシャンプー・コンディショナーのボトルを色で明確に分けて見分けやすくしたり、浴室のオケを持ちやすいよう小さくしたり、利用者さんの意見を取り入れてシャワーフックの位置を低くしたり、自分でやりたい気分になれる演出をしていきました。
  3. 自己選択・自己決定ができる環境作り
    デイサービスでプログラムをいくつか準備しておいて、朝利用者さんに、今日の「一日の過ごし方」を選んでもらっています。プログラムのボードに自分の名札を貼ってもらい、その日の気分に合わせて過ごせるようにしていますね。

これらの①~③の取り組みにより、利用者さんの生きがいややりがい、喜びや役割づくりにつながり、職員と利用者さんの関係だけでなく、利用者さん同士の助け合いや感謝の関係にもつながりました。それにより、職員にも見守る力をつけてもらったり、新たな発見やよりよい環境づくり、相手の能力を生かした介護など「良くする介護」へと結びつけていきたいと考えています。

すごい…。これって一見、一つ一つは小さくて何気ないことですが…それが積み重なって、実はすごく大きな変化につながっていきますよね。

私は10年ほど介護・看護の仕事に携わっていますが、介護施設や病院の中で、どこかで利用する側の“やらされている感”や、必然的に受け身になってしまう・自立を妨げられるような仕組みに、違和感を抱いていました…。

この“自分でやりたくなる感覚”“選んでいる感覚”を引き出す仕掛けは、これまでの福祉にありそうでない盲点だったんじゃないか?そんな風に感じました!

はたらく活動~sitteプロジェクト~

“勤勉な日本人”は、何歳になっても「仕事」と「役割」が元気の素だったといわれています。

自立支援活動から、利用者さんに“デイサービスでの役割”を生み出すことはできましたが、それだけでなく利用者さんに自宅とデイの“間”の役割や社会参加の機会をつくり、実社会での「はたらく」につなげたいと考えるようになりました。

「はたらく」というと一般的には「就労」と捉えられがちですが、私たちの西院では「はたらく」を3つの定義で捉えています。「①対価を得る活動(就労)」「②ハタを楽にする活動(町や人の役に立つこと)」「③お互いさまの活動」と広く捉えることで、はたらく対価=「Well-being(社会の中でよりよい状態でいられること)」と考えています。

そこで立ち上がったのが「sitteプロジェクト」です。職員から公募して「知ってほしい」という想いから、sitte(知って)プロジェクトと名付けました。
知ってほしいことは「前向きに頑張ろうとしている高齢者がいること」「介護サービスを利用するからといって、何もできなくなったわけではないこと」「誰かの役に立ちたいと考えていること」「笑顔で人生を楽しんでいること」「認知症であっても、できる環境を整えれば、やれることがたくさんあること」などで、高齢者に社会とのつながり、活躍の機会をつくるために始めました。

「働く=就労」のイメージは強いですよね…。
特に近年の日本は、長時間労働が当たり前になっていたり、「仕事=苦しい思いをして、対価を得るもの」という自己犠牲的な風潮があったように思います。そんな仕事を、高齢になってまでしたい人はほとんどいないですよね。

でも本人が純粋に楽しんだり、得意だったり、人の役に立って嬉しいと感じながら「はたらく」ができたら、本人も周りの人も幸せだし、そうして役割を持つことで心身の健康にもつながりますよね…!

sitteプロジェクトの取り組み①ハイカラマザーズ

sitteプロジェクトでは、主に個人の得意なことを活かしてできることをやっていただいています。たとえば、刺し子、絵馬の作成、お惣菜づくり、駄菓子屋、Tシャツの発送作業などで、対価をお支払いしているものもあります。

一例としてお惣菜づくりについてご紹介します。「ハイカラマザーズ」という女性の利用者さんで構成しているチームで、イベントなどでお惣菜販売を献立づくりから調理・販売までしてもらっています。完売したりすると、みんなの感動が生まれますね。他にもハイカラマザーズでは、毎月こども食堂の調理に携わって150食分のカレーの準備などもしてもらっています。

ハイカラマザーズ!その響きだけでなんだかワクワクします♪
仕事でたくさんの高齢者と関わってきましたが、料理が得意だったり、おもてなしが好きな女性って多いんですよね。
作って楽しい・嬉しい、買う人や食べる人も嬉しい、そんなお互いにとっての幸せが伝わってきます!

sitteプロジェクトの取り組み②オリジナルブランド

「sitte」の名前でオリジナルブランドを立ち上げ、商品の制作・販売も行っています。

企業と共同して、市場でも通用する商品づくりをしていて、参加する高齢者の社会参加活動をより意味のある作業にする、社会の一員であることを実感しやすくする、コンセプトを明確にする、世間に対する発信力を上げる(介護のイメージアップを図る)、職員のモチベーションを上げることも目的・目標にしています。「多様な人が携わることができる仕事の創出する」「高齢者の生きがいと地域の活力づくりに貢献する」ということを大切にして、高齢者が地域に貢献できる、人と人とがつながっていく取り組みを目指しています。

コラボ企業として、株式会社ヒューマンフォーラムが運営する雑貨屋&カフェ「mumokuteki(ムモクテキ)」で、商品の販売などを行っています。そこで販売するまな板やカッティングボードを、西院の利用者さん(sitteチーム)で製作しています。製作はやりたい人に参加してもらっていますが、メンバーは固定にして、出勤簿をつける・お揃いのエプロンで作業するなど、仲間意識を持って取り組める環境づくりを意識しています。実際にお店に行って販売している様子を見てもらい、どんな人が買う・使うのか?なども見て感じてもらっています。

また、有償ボランティアとして、参加メンバーには謝礼をお支払いしています。あえて現金にせず、商店街の金券として渡して、金券を持ってみんなで商店街に買い物に行ったりもしていますね。それによって、地域への還元、利用者さんと職員・地域住民の交流、若い人の高齢者へのイメージを変える機会などにつなげています。

つくる・役割を持つ・対価を得る・仲間ができる・地域とつながる…たくさんの好循環につながっていますよね。素敵すぎます…!

異業種連携からの地域共生社会

  1. 企業との連携
    取引のある水谷自動車と連携して、中古車の洗車を利用者さんに有償でやってもらっています。あとは、KYOCERA(京セラコミュニケーションシステム株式会社)の企業内で使用する社内封筒の作製などをしてもらっています。ただ内職としてやるのではなく「どんな風に会社で使われるのか?」など、社員の方に聞きながら取り組んでもらっていますね。
  2. 行政との連携
    京都市右京区と連携して、健康増進イベントの景品製作をsitteで行いました。材料も右京区のものを使い、ツボ押しと手ぬぐいのセットを製作しましたね。
    また、京都府の行政が主催している「異業種連携協議会」に私や職員が参加しており、認知症にやさしいアイデアを企業が考えるコンペでの景品製作もsitteで行いました。
  3. 林福(りんぷく)連携
    林業との連携も行っています。林業は担い手が不足し、年々木材の活用が減ってきています。そんな中で、林業の高校生と商品開発・製作に取り組みました。賽銭箱型貯金箱、コースター、スマホスピーカーなどを一緒に製作し、アーティストの集まる祭りで高校生と利用者さんで販売を行ったりしました。

地域共生社会づくりには異業種連携が大切で、福祉“だけ”ではとても実現できないですよね。様々な企業や行政がつながって、人々が地域で生活していくために住みやすいサービス・仕組みづくりをしていく必要があると思います。

日常と非日常(まとめ)

人の生活にはハレ(非日常、特別な日)とケ(日常、普段の生活)があります。平坦な日常生活を支援する“だけ”では人の生活は成り立たず、偏ってしまいます。

日常生活の中には「はたらく」「遊ぶ」「学ぶ」などの要素があって、日常と非日常が重なって混じり合っていますよね。だからこそ、認知症だから、介護が必要だから、という境界がなく、みんなで楽しめることが大切なのではないかと思います。

たとえば、コロナ禍前の話になりますが、飲み屋で認知症の人や家族・地域の一般の人の交流会を開催したり、「サーフィンがしたい」という認知症の方の想いから多様な世代で楽しめるサーフィンプロジェクトを開催したりしました。

認知症だとか高齢だとかに関係なく、多様な人が“一緒に楽しむ” “一緒に目標に取り組む”こと、目的意識や共同する意識でつながることが大切なのではないでしょうか。それを作っていくのが、私たちの役割なのではないかと思っています。

学生からのQ&A

様々な企業や団体と連携されていますが、どうやってつながっていくのですか?企業へのアプローチ方法や反応、つながり方を教えてください。

最初は仕事を見つけることに懸命になりすぎて、アタックしても玉砕が続いていました…。下手に出すぎたり、相手(企業)へのメリットも伝えられず、うまくいきませんでしたね。

そこから相手が求めていることや、お互いの想いや目的意識がマッチングするところを考えて、プレゼンや対話をするようになり、今ではつながっている企業から別のところを紹介して頂けたりしています。
うまくまわりだすと、次の紹介にもつながっていきますね。

デイサービスで自立支援をされていますが、そこには様々なリスクや時間かかること、負担などがあると思います。発表されていたお話以外で、職員で取り組んだことや工夫されたことがあれば教えてください。

確かに、職員に新しい考えを浸透させるのには時間がかかりました。意識を変えるために研修や話し合いを重ねていきましたね。
具体的にやったこととして例えば、「良くしよう委員会」「夢を叶える委員会」という委員会を、職員にどちらかに入ってもらいました。

「良くしよう委員会」では、利用者さんの動きをマニアックに分析して、必要以上に手を出さなくても見守るだけでいい根拠を共有したりしました。「夢を叶える委員会」では、利用者さんのしたいことを掘り起こそう、実現しようというコンセプトで、実際にそれを実践して成功体験を作っていったりしました。もちろん一進一退ですが、日々試行錯誤しています。


福祉法人だからこそ挑戦したこと・できたこと、そして福祉“だけ”ではないつながりができたことで可能性が広がり実現してきたこと。京都福祉サービス協会の取り組みが、その利用者さん、地域の人々、企業…多様な人や活動をつなぎながら、お互いの日常や非日常、「はたらく」を良くしてきたことが伝わってきました。
この想いや活動を“知って”いくことで、ひとりでも多くの人にとって、福祉の枠を超えた“その先”にある地域共生社会を考えるヒントやきっかけになれば幸いです。

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