Report業界研究記事
2021.03.26
介護のリアルin京都|介護の仕事研究セミナーVol.3レポート
医療から介護へ その人らしさを支える介護の魅力
1月17日、介護の仕事研究室「セミナーVOL.3 介護のリアルin京都」を開催しました。
今回は話し手にNPO法人おはなの森田浩史さん。聞き手に社会福祉法人くらしのハーモニーの上埜佳代子さんを迎えて語っていただきました。
医療の世界から飛び出し、高齢者が地域で暮らすための新たな事業を仕掛ける森田さん。
施設ならではのケア、住宅ならではのケア、地域で暮らしていくためのケアについて、元医療職だからこその発想や支援について。
また、「医療」という別の視点から見た「介護」とはどのようなものかについて、考える機会にもなりました。
今回も多くの学生にご参加いただき、また一つ「介護のイメージをアップデート」できたように思います。
ぜひ最後までお読みください。
●NPO法人おはなとは
自分らしく元気になれるデイサービスをつくりたい。
森田さん:NPO法人おはなの森田と申します。京都の宇治市で、一軒家を使ってデイサービスを運営しています。民家を改修し、「通いの家おはな」と名付け、1日11人までという小さな規模で自立支援を行っています。
法人は、2011年10月に設立。「おはな」とは、ハワイの言葉で「家族」という意味。家族のようなお付き合いができればということと、海外の言葉なのに日本的な響きが気に入って名付けました。
自分らしさを出してもらうためなら、どんなことをしてもいい。そんな想いをスタッフに共有し、自分でできることはやっていただくことで、元気になれるデイサービスをめざしています。
ではなぜ「自分らしさを出してもらうためなら、どんなことをしてもいい」と思ったかについてお話しします。
僕自身は、京都府亀岡市出身。滋賀県の学校で学び、理学療法士になりました。
病院のリハビリテーション課で10年間勤めた後、上埜さんがおられる京都の「くらしのハーモニー」へ入職。
地域の中で関わり支援するうちに、これからもっと歳をとった時、自分たちで困りごとを解決できる地域にしたいと思い、今の法人を立ち上げたという流れです。
リハビリテーション課で勤めていた時に感じたのは、「元の生活をするために治療するのが病院なのに、病院そのものが生活できる環境になっていない」ということ。病室やリハビリをする部屋はあくまで生活をする場所ではないんですよね。
だから、いざ患者さんが退院されて家へ帰られる時に、家を訪問させていただいて、退院後の家の環境をどうするか、といったところまで考える機会が増えてきました。
病院に限界を感じると同時に、患者さんが家や地域でどうすれば暮らしていけるかまで考えることが、とてもおもしろいと気づいたんです。
上埜さん:印象的だったのは、森田さんが「病院は生活する場じゃない」とおっしゃっていたこと。おもしろい理学療法士さんだなと思っていました。森田さんは決して医療の世界がイヤでデイサービスをはじめたわけではないんですよね。
リハビリって全人権的復権という意味もあると思うんです。病院内のリハビリに留まることなく、暮らしやその人の命を本質的に大切にするリハビリをしたいという想いで活動されていると思ったのですが、いかがですか?
森田さん:そうですね。自分の性格によるところもあるのですが、制限をされてしまうのが苦手なのかもしれないですね。せっかく地域の課題に気づけているのに、行動に移せない場所にいることがいたたまれないといいますか…。
地域で働く理学療法士へ。
森田さん:そして、訪問リハビリで在宅生活を支える、地域で働く理学療法士になろうと思いました。地域はあくまで、生活をする場所。だからこそ、おはなの家では、一人ひとりが自分らしく生活するために、スタッフも利用者さんも、同じ生活者として過ごすことを大切にしているんです。
デイサービスと聞くと、お風呂に入り、レクリエーションをするというイメージがあると思います。でも、そうじゃないデイサービスがあってもいいんじゃないかと。通いの家おはなでは、たとえば料理が好きなら料理をつくる。編み物が得意なら編み物をしてもらうし、絵が得意な方に法人のカレンダーをつくってもらったりもしています。自分らしく過ごしてもらいます。高齢の方だからこそ、いろんな経験をされています。つまり、いろんな可能性を秘めているんですよね。
また、民家の良さを活かしてリラックスできる木目調や、こだわりの檜風呂「リハビリ浴槽」など、居心地のいい家づくりをすることで、気持ちよく過ごせる関係づくりを大切にしています。
●介護の「3K」をアップデート
僕にとっては「健康・感動・感謝」です。
森田さん:介護の仕事はよく「3K」と言われますよね。「臭い・汚い・給料安い」みたいに。
ひと昔前はそうだったかもしれませんが、最近はそんなこともないように思うので新しい「3K」を考えないといけません。
僕の中では「健康・感動・感謝」。けっこう体を動かすので、働きながら健康になれる。利用者さんが元気になってくれれば感動する。感謝することもされることもたくさんある。というふうに実感しています。
高齢だからこそ、大きな可能性を秘めている。
森田さん:「通いの家おはな」では、利用者さんとスタッフがいっしょにご飯をつくります。他のこともそうですけど、料理にしたってぼくたちよりも経験豊富で、上手いんですよ。102歳の利用者さんにだって、お箸を準備したり、できることはやってもらいます。また、外部からTシャツづくりの依頼があった時も、みんないっしょになってTシャツをつくって販売しました。
地域の中の一人の住民として、役割があることが生きがいにつながります。高齢だからこその可能性が、日々のそこかしこにあふれていると思っています。
上埜さん:介護業界は、これから少子高齢化が大変になりいろんな課題が出てくると思います。今私たちが考えているのは、身近な人たちのつながりを大事にしながら介護事業をやっていかないといけないということ。大きく手広く何かをやるというよりは、身近な町内や知り合いなどのネットワークをつくっていくことを、一人ひとりがしていけばよりよい高齢社会になっていくんじゃないかって。
森田さん:そう思います。うちの娘は生まれて3ヶ月くらいから通いの家おはなに来てて、利用者のおじいちゃん、おばあちゃんによく面倒を見てもらいました。
上埜さん:うちの娘もくらしのハーモニーに小さな頃から夏祭りに来てるので、今中学生なんですけどボランティアしたいって言ってくれています。そうやって多世代の交流がもっと生まれていけばと思いますね。
●地域の一員として
町内会の行事に参加。
おはなの家は、60軒くらいある町の中にあります。デイサービスのオープン時には、地域のみなさんに説明会をさせていただきました。最初は厳しいことも言われましたが、今では認めていただいたのか、事業所として町内会に入れてもらっています。
たとえば、夏の地蔵盆では、うちの事業所を開放してアニメ映画大会を開催したことも。町内の子どもたちが映画を観ている間に、大人たちは外でお酒飲んでるといった光景ですね。
そんなふうに、地域の方々との関係づくりも、事業所としてできてきている状況です。
法人の新たなチャレンジとして、小規模多機能居宅介護という泊まりもできる施設「小多機の家はなえみ」と、「みんなのカフェくりぐり」を併設した場所をオープンしました。
小規模多機能に取り組もうと考えたのは、利用者さんのご自宅の中は部分的にしか見れないこともあったり、夜がお困りの方もけっこうおられたり。
たとえば認知症の症状が進んだり、体がどんどん弱っていったりすると、家で夜過ごすことが不安になります。小規模多機能なら比較的自由度の高いサービスを提供できるので、約5年間くらい構想し続けて、ようやくかたちになりました。
介護の仕事は、家族の最適解を見つける宝探し。
地域には課題がたくさんあります。
そんな山積みの課題を解決する方法や、今の地域に足りないものを考えるのが好きなんだと思います。
いろんな家族のかたちに関われるところが、介護の仕事のおもしろさと難しさ。
僕は介護の仕事のことを、正解のない問いに、ご本人さん・ご家族・働くみんなで対話し、最適解を見つけていく宝探しのように感じています。
●質問/感想など
みんなが笑顔になれる家族のかたちを妄想し、無理のない範囲で現実に落とし込む。
Q:通いの家おはなは、空き家を再利用されたのでしょうか?
森田さん:通いの家おはなの民家は、築40年以上の建物でした。デイサービスをはじめる時に少し手を加えていますが、使う直前までは他の方が住んでいる家だったんです。物件を探している時にちょうど売りに出ていたという感じですね。
手すりや浴槽の位置など、檜のお風呂にはかなりこだわっています。浴槽の四方に掘り込みを施し、掴めるようにもなっているんです。そのことにより高齢の方の動きを邪魔しない作用も。浴槽が真四角なのもポイント。システムバスのように丸いと滑ってこけてしまうリスクもありますから。
Q:「おはな」の由来にもある、家族のようなお付き合いについてお聞かせください。
森田さん:いろんな家族がありますよね。さまざまな家族の一面に関われるところが、この仕事のおもしろさの一つだと思っています。ぼくたちは、家族にはいろんなかたちがあるという視点をもちつつ、現実離れはしない範囲で妄想するんです。
利用者さんの家族のかたちをチームでシェアして、働くスタッフの間で情報共有した妄想を、その時最適と感じられる現実に落とし込むこと。これが介護のおもしろさです。
話し手:
NPO法人おはな 理事長 森田浩史 氏
京都府出身。2000年より理学療法士として、社会福祉法人宇治病院で10年間勤務。2010年からは社会福祉法人くらしのハーモニーで勤務しながら、デイサービスに興味をもち、NPO法人おはなを設立。2012年5月に通いの家おはな(デイサービス)を開設し8年半が経過。2021年3月に小規模多機能&カフェを新たにオープン。
聞き手:
社会福祉法人くらしのハーモニー 上埜佳代子 氏
1995年、社会福祉法人くらしのハーモニー入職。支援相談の臨床を経験後、人事・研修担当となり、法人の実習・研修・採用・人事業務を担当。